ラスト・キング 王家の血を守りし勇者たち
(2016年 / ノルウェー)1206年、国王・ホーコン3世が暗殺される。残された幼い王子を守るため、ビルケバイネルと呼ばれる勇敢な戦士、シェルヴァルドとトシュテンがすべてを犠牲にして戦う。
ノルウェーと聞いて
ノルウェーについて知っていることと問われれば、ただ漠然と「ヴァイキングの国ですね」と答えるくらいの知識しかありません。そのヴァイキングにしても、粗野で暴力的な海賊という偏った印象しか持ち合わせておらず、そのためどことなく感情的で攻撃的な国民性なのかなと一方的に思い込んでいる次第です。歴史においては言うに及ばず、地理についてもほとんど無知識で、北欧の一国であることは間違いなく認識しているものの、スウェーデンとどっちがどっちだか区別がつかず、寒さが厳しい国なんだろうと単純に捉えているだけ。ただこれは僕の不勉強だとか反省するまでもないことで、おそらく大部分の日本人がノルウェーについての十分な知識は持っていないでしょう。と言うのも、僕らにとってのノルウェーは、直接的に必要性や関係性を感じるほど身近ではないということです。政治や経済で高次元レベルの取り引きは行われているとは思いますが、寿司ネタのサーモンがノルウェー産だったということ以外で、一般人がノルウェーを意識することは稀でしょう。ノルウェーが核ミサイルを開発していて日本も射程距離内に入るというのであれば話は別ですが、むしろヴァイキングや北欧のどっちかの国というくらい知っていれば十分なのかもしれません。しかし、そういった予備知識がほとんどない国の映画だからこそ、展開が読めずスリリングを楽しめるという醍醐味があります。
物語の舞台は13世紀のノルウェー。ですが、その時代はもちろん、ノルウェーの建国から現在にいたるまでの歴史についてまったく無頓着なので、ちょっと調べてみました。現在のノルウェーの地は紀元前4世紀に北ゲルマン系のノルマン人が定着、彼らはヴァイキングとして活動し、ヨーロッパ各地やアイスランド、グリーンランドに入植、一部はアメリカ大陸にも到達しました。ノルウェーに残ったノルマン人は、9世紀の終わりにハーラル1世によりノルウェー最初の統一王国が成立。その後、王家での権力闘争が激化し、11世紀にはデンマークのカヌート大王の北海帝国に併合されました。12世紀末には独立を回復、13世紀半ばにはホーコン4世が即位するとスカンディナヴィア半島の3分の2を治めるなど最盛期を迎えますが、14世紀末、デンマークのマルグレーテ1世によるカルマル同盟のもとでデンマークの実質的な宗主権下に置かれるようになります。その後、ナポレオン戦争のときデンマークがスウェーデンに敗れたため、1814年、スウェーデンに割譲。独立を模索するノルウェーは、1905年に国民投票での圧倒的な賛成とスウェーデンとの交渉の結果、無血の独立を達成しました。第2次世界大戦でナチス・ドイツに占領されますが、戦後独立。以後、外国の軍事基地を置かない、EUに加盟しないなど、バランス的な政策を採用し続けています。
この映画は、13世紀に最盛期を築き上げるホーコン4世が即位する前の内戦を描いたもの。ホーコン4世、ならびに父ホーコン3世の人物像については触れられておらず、3世が、東部を支配する貴族層や王族たちと争い反対派によって暗殺されたところから物語はスタートします。ストーリーの主な流れとしては、ホーコン派の戦士(ビルケバイネル)たちが宮廷内部での権謀術数に巻き込まれながらも、幼子である4世を守り反対派の意図をくじくというものです。映画はそこで幕を閉じますが、のち、忠臣たちに守られ無事に王位を継承できた4世は、政治体制を一新して国内を盤石のものとすると、イングランドとの交易で国内の経済を繁栄させます。また、積極的な領土拡大を行い一時は北海の覇権を握ることに成功したとのことです。三国志に登場する劉禅とはさまざま面で対照的ですね。今度からは、ノルウェーと聞いてサーモンを思い浮かべる前に、この映画のエピソードが頭に浮かんできそうです。