素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店

(2015年 / オランダ)

天涯孤独の身となったヤーコブは待望の自殺計画を開始。そんな時、あの世への旅立ちに協力することを裏稼業とする葬儀屋の存在を知ったヤーコブは、すぐに葬儀屋とサプライズコースを契約するが…。

どう死ぬのか

素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店

僕が小学2年生くらいの頃、いつも遊んでいた友だちと、ふとしたことで「死んだらどうなるんだろうね」という話題になったことを覚えています。もちろん、10歳にも満たない子供が話す内容なので、どうして死ぬのかとか、なぜ死ななければならないのかといった死に至る前提は一切スルーで、単に未知の世界に対する冒険気取りかつ面白半分でした。詳しくは覚えていませんが、おそらくは漫画やアニメで観た天国や地獄の様子とか、透明人間(霊体)になって現世にとどまり続けて好き勝手なことができるとかいうことを話したんだと思います。で、ここははっきりと覚えているのですが、その話題が終わる頃、友だちがこうつぶやきました。「一度死んでみたいね」。彼に自殺願望があったわけではありません。ただ、いま目に見えている現実とはまったく異なる、ディズニーランドのような夢の世界があるのなら遊びに行ってみたいというニュアンスでした。僕も彼には同意でしたし。話はそれで終わり、その後一切この手のネタでは話さなくなったので、僕も彼も死後の世界を一介のおとぎ話かアトラクションのように捉えていて、いつか本当に迎えることになる重みを持ったものとは考えていなかったわけです。ことに、小学2年生、救済系の宗教に熱心でない、身近な家族が健在という状況を考えれば、死んだらどうなるという命題は、テレビゲームの裏ステージのようなレアな存在にすぎなかったと考えていいでしょう。

いまこの年齢になってその話題を振れられたら、間違いなく僕は当時とは180度異なる反応を示してしまいます。死んだら天国に行けるのか地獄に落ちるのか、それとも透明になって現世に居残り続けるのか。そんなことは気にもなりません。僕は宗教的な死後の世界観にはまったく染まっていないので、死んでしまえばそれっきりだと考えているし、先立った旧友とあの世で酒を酌み交わすなんてことあるわけないと思っています。では、「死んだらどうなるんだろうね」と聞かれたら、どう反応するのか。僕は死んだ後のことではなく、「どう死ぬのか」をとっさに思い浮かべると思います。病気、事故、事件、自殺など、死の原因となる事象はさまざまですが、漠然とでも具体的にでも自分自身がどのような末路を迎えるのかの覚悟みたいなものはあらかじめ持っていて、それに沿って死を直感した時にどう行動するかは、一定の年齢になれば誰でも意識しているはずです。死んだらその時考えるなんて豪快な生き方をしてみたいものではありますが、それは自分自身に対しても身近な人に対しても無責任だと思うし、気がついたら死んでいたのなら、自らの人生が何だったのか振り返る余裕すらなかったことになり、なんだか不憫に思います。「どう死ぬのか」ということは「自分の人生にもっともふさわしい引き際を探ること」であり、ひいては「人生の最期に華を添える」ことだと思うのです。

この映画は「死に方」という重いテーマを扱っていますが、軽いタッチで描かれているので構える必要はないです。「旅立ち」を謳い文句にする謎の代理店は、実は自殺願望のあるクライアントを不慮の事故に追いやるという業務をしていて、ふとしたことから契約を交わした主人公のヤーコブにも魔の手は襲いかかります。ヤーコブは、自分に襲い掛かってくる殺意の影を察知し受け入れようとしますがなぜかうまくいかず、しまいには別の目的のため逃げ回るという話です。さて、「どう死ぬのか」という命題ですが、たとえ毎日書き続けてきた日記を読み返したり、卒業アルバムや旅行の写真を眺めたり、履歴書や経歴書で過去を振り返ったところで、答えが出るはずがありません。そもそも「死」というものが不如意で非日常的なものなので、思い通りの死に方をシミュレートすることなんて不可能です。では、どう向き合ったらよいのか。おそらく近しい答えはないでしょう。でも、ひとつだけあるとしたら、それは「身をもって死を知っている」という状況ではないでしょうか。「つねに死と隣合わせ」と言っていいかもしれません。ちょっと陳腐な言い方になってしまいますが、死の一歩手前で生還した人、自殺未遂から立ち直った人、こういう人たちは死後の世界を垣間見た人たちと言えるでしょう。だからこそ死の重さを物理的に体感していて「どう死ぬのか」、いや「どう死んではいけないのか」を知っている。

結局のところ、考えても仕方のないことなのかもしれません。でも、そこまで自分の死に際を考えているのは自分の人生を大切にしている証拠で、「人生の最期に華を添える」段になった時、サプライズが待っているかもしれない。そういう映画だったと思います。


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