ボーン・アルティメイタム

(2007年 / アメリカ)

モスクワから始まるボーンの隠密の旅は、その後、パリ、ロンドン、マドリッド、さらにモロッコのタンジールを経てニューヨークへと向かう。すっかり暗殺者の濡れ衣を着せられた彼は、CIAによる新たな「ブラックブライアー計画」が進むなか、またもや亡き者にされる運命にあった。

脱アダルトチルドレンと自分探しは同一視できるのか

ボーン・アルティメイタム

記憶喪失とまではいかなくとも、「自分自身が何者なのか」と思い悩むことでアイデンティティを失っている人は相当数います。僕もそのうちのひとりです。自分が持つ客観的な価値、周囲が自分に対して持つ評価を気にし始めると、これからどのように生きていけばいいのかわからず、目標や生きがいも見つけられないという絶望的な気持ちになってしまうのはしょっちゅう。自分が自分でないような感覚に襲われ、地面から足が浮遊しているような不安定さに苦しむこともよくあります。本来の自分を受け入れられないことで生じてくる劣等感や絶望感は、めまいでぶっ倒れてしまいそうになるほど辛いものがあります。調べてみると、幼少期に形成されるべき自我が未発達であるためのようで、他者との比較も偏ったものとなり、知らず知らずのうちに自分を見失っていくことが原因とのことです。

こういう症状のことをアダルトチルドレンと呼ぶそうです。機能不全家族で育った子供が、大人になっても生き辛さを抱えている人々のことを指します。幼少期の経験から、性格や考え方に偏りが生じ、大人になってもその偏りのせいで、社会に適応できないなどの問題を抱え込むのです。アダルトチルドレンの具体的な原因としてはいくつか考えられますが、「親の愛情が足らなかった」「親から否定されて育った」「親からの期待がプレッシャーだった」などが挙げられます。僕の場合、当てはまる点がいくつかありました。自分の存在価値を見出すことができず自尊心が屈折したものになり、「自分は存在してはいけない」というネガティブな考えが固着。結果、物事の改善より自分を責めることに躍起になってしまい、自分の殻に閉じこもる傾向がかなり強くなってしまったのです。なお、僕のように否定されて育ったのとは反対に、溺愛、過保護の家庭環境でもアダルトチルドレンになる可能性があるということです。

このアダルトチルドレンの特徴として、僕みたいに自分の殻に閉じこもり他者を寄せ付けないタイプから、周りの期待に応えようとがむしゃらに頑張るタイプ、問題があったときでもおちゃらけてごまかそうとするタイプ、自分の意思とは違っても周りが正しいと言うとおりの行動をとるタイプなどさまざま。基本的に思考や考え方の偏りにより発症し、軽度なものから精神疾患に発展する重度のものにまで至ります。総じてアダルトチルドレンの原因は過去の幼少期における体験にあるわけで、問題を解決しようにも、過去に遡って歪みを正すことはできません。そもそも、自分がアダルトチルドレンであると自覚していない人も多いわけですから、いったいどこに本来の自分を取り戻す糸口があるのか、その糸口の糸口さえ見つけることができないのです。

この映画の主人公ジェイソン・ボーンは、いまのジェイソン・ボーン自身が本来の自分ではないことに気づき、残された微かな記憶を頼りに、先々で待ち構える困難と格闘しながら、本来の自分に近づいていきます。ボーンはアダルトチルドレンと同一視すべき対象ではありませんが、ボーンはボーンとしての人生を送ることを拒否し、世界のあちこちを駆け巡りながら、そのほつれた記憶の糸口を広げていきます。本来の自分が恋しかったのか、元の懐かしい生活に戻りたかったのかということではなく、ボーンはボーンになった経緯に作為的な陰謀を感じて、ひとり捜査を始めたのです。アダルトチルドレンだったらそんなこと思いつきもしませんから。いや、しかし、アダルトチルドレンになる原因には身体的、精神的な虐待を受けたこともあり、恐怖や不安を感じて育った場合、感情の乱れやパニックを引き起こします。ボーンが殺人マシーンにさせられた過程において同じことをされていたとしたら、ある意味彼もアダルトチルドレンであったということができるかもしれません。

過去の事実を変えることはできませんが、アダルトチルドレンは必ず回復することができます。主に「自分の偏りを知る」「原因を考える」「自分を客観的に評価する」「違う考え方を取り入れる」などのアプローチにより、少しずつ過去から自分を解放していけるのです。ただ、そうは言っても、また同じ命題に戻りますけど、「本来の自分」とはどんな自分なのかを朧気ながらでもわかっていないと、解放できるものも解放できません。ボーンには本来の自分の記憶が断片的ですがあり、またボーンあるいは記憶を失う前のボーンを受け入れてくれた人がいました。しかし、おそらくアダルトチルドレン化した僕自身が本来の自分であるにもかかわらず、またそれとは違った自分を捜している僕。見つけられるのだろうか。いや、現状の僕自身にこのままではダメだと叱ってくれる人は現れるのか。なんか頓珍漢な自分探しを自力でしようとしている僕には、まずそういう人と出会わなければ脱アダルトチルドレンなんて夢のまた夢なのでしょう。


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