天使と悪魔

(2009年 / アメリカ)

カトリック教会の新しい教皇を選出するコンクラーベの開催が迫るヴァチカンで、候補者の枢機卿たちが誘拐される。宗教象徴学者のラングドン教授は、ヴァチカンの依頼を受けてこの事件の調査を開始。教会に迫害された科学者たちが創設した秘密結社イルミナティとの関連性に気づいた彼は、美人科学者ヴィットリアの協力を得て、謎に満ちた事件の真相を追う。

イルミナティは陰謀論なのか

ベンジャミン・フルフォード著『図解 世界「闇の支配者」』によれば、イルミナティは世界を支配する集団としていまも暗躍しているとのことです。その主な構成員は、ロックフェラー家(石油メジャーとして石油利権を握り、現在は米系投資銀行を通じて原油マーケットを支配している)、ブッシュ家(ロックフェラーとともに石油利権を握るべく、親子二代の大統領時代に世界最強のアメリカ軍を動かし紛争を誘導)、ロスチャイルド家(18世紀から戦乱に乗じて各国政府や王朝に出資するなど、欧州金融界を支配)、英王朝(現ウィンザー朝はもともとドイツ系のハノーヴァー朝の系譜で、親族が穀物貿易会社を経営しており裏で世界の食料事情を牛耳る)、そしてローマ法王(前法王のベネディクト16世はカトリックではなく、他の一神教信者。その先代のヨハネ・パウロ2世は本物のキリスト教徒だったため暗殺された)。顔ぶれを見る限り、富や権威の象徴である彼らが世界を操る力を十分に持っていると言えそうです。で、このイルミナティは「世界には人類が多すぎる」として、恐るべき計画を実行しているというのです。

その計画とは「ニュー・ワールド・オーダー(新世界秩序)」に基づいた人口抑制策。ひと言でいうと、国家の枠組みを超えた少数のエリートで富を独占し、その他の人類はすべて家畜化すること。具体的には、40億人にも及ぶ有色人種を「間引き」することです。強烈な白人優位の思想を持つ彼らにとって、有色人種は人口ばかり増えて環境を悪化させる「ガン細胞」くらいの存在としか思っていません。そこで、人為的に自然災害を使い疫病を流行らせたり、戦争を起こして人口削減を目論んでいるのです。現に、SARSや鳥インフルエンザなどの疫病、ハリケーンや地震災害(3.11の東日本大震災含む)などが起きているのは、ほとんど有色人種が多く住む地域。単なる偶然と思われるかもしれませんが、彼らはすでに石油利権を掌握して軍産複合体を暗躍させ国際金融資本を操っているため、不可能なことではないといいます。なお、イルミナティにはさまざまな組織・派閥が存在し、前述の主な構成員のほか、300人委員会、フリーメイソン、外交問題評議会、CIAなどがあるとのことです。

世の中一般では、こうした見立てのことを「陰謀論」と呼ぶ向きがあります。陰謀論とは、ある出来事について広く人々に認められている事実や背景とは別に何らかの陰謀や策謀があるとする意見のことを指しますが、よく「トンデモ理論」などと揶揄されネタとして嘲笑の対象とされることがしばしばです。日本でも、マスコミが反日的な報道をしたり、地方議会が政府に対して従軍慰安婦についての意見を求める決議を出したりすると、ネットで「中韓が裏で糸を引いている!」と騒いだ途端、「陰謀論に構ってる暇があったら働けよ、ネトウヨw」などと冷水をぶっかける書き込みが並ぶパターンが繰り返されています。事実かどうかはさておき、陰謀論が本当に小学生の作り話程度の噂や都市伝説の類であるにしても、なぜ「陰謀論」という言葉が飛び交うのか考えてみる必要があると思います。「仕組まれている」「大企業の利益誘導だ」「ユダヤの資金が動いた」など、起こったことの裏側にある企てを主張する人たちはそれが「陰謀論」だとは言いません。「陰謀論」という語感自体すでに児戯のレベルに貶められているため、「陰謀だ」と口に出した瞬間に揚げ足を取られる可能性が大だからです。このように「陰謀論」という言葉が「ネトウヨ」「ニート」と同等のニュアンスに置き換えされてしまった経緯や意図を探る必要があると思うのです。

ただ、この映画を観る上では「陰謀論」など度外視したほうがエンターテイメントとして楽しめます。原作とはあちこち相違点があるようですが、映画では謎解きをテンポ良く重ねていくことによるスピード感を重視したようで、2時間ちょっとがあっという間に思えるほどストーリーに引き込まれます。また、二転三転するサスペンスも巧妙に取り入れられているため、全体的に濃密な世界観を味わうことができて僕はとても満足でした。それに、キリスト教徒でなければ話についていけなくなるということは決してないところも評価できます。ただ、やはりイルミナティの存在は不気味でした。映画では深く踏み込んでいませんが、イルミナティは決して表に出ず人を操ることで目的を達成する存在として描かれていました。したがって、今回の一件でイルミナティの目論見を阻止することはできたものの、イルミナティそのものを根絶したなんてことはまったくありません。先遣隊を地球に送り人間を操って引っ掻き回しておきながら、自身は姿を見せない地球外生物みたいな感じです。

「悪魔の証明」という言葉は、ある現象が「ない」ことを証明することは、それが「ある」ことを証明するよりも圧倒的な困難を強いられるという意味ですが、まさにそれです。イルミナティがないことは証明できなかった。だから陰謀論がはびこるのです。でも、その一方で陰謀(イルミナティ)なんて存在しないとしきりに言い立てる向きもある。このイタチごっこが終わらないうちは、陰謀は存在する、イルミナティは存在すると勘ぐってしまうのも無理はないと思うのです。


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