イゴールの約束

(1996年 / ベルギー・フランス・ルクセンブルク)

違法外国人労働者の売人である父親に従属し、罪の意識もなく生きる15歳の少年イゴール。ある日、瀕死の外国人労働者と交わしたひとつの約束が、彼の心の葛藤を生む。約束を守ることは、父親を裏切ることになる。イゴールは、苦しみながら真実と向き合い、自分に目覚めていく。

不法滞在者が絶えない背景とは

日本における不法滞在者の数は、法務省発表によると59,061人(2014年1月1日現在)。国籍・地域別に見ると、トップの韓国が14,233人で、中国(8,257人)、フィリピン(5,117人)、タイ(4,391人)、台湾(3,557人)と続きます。不法滞在は不法残留と不法入国に大別され、不法残留(日本の場合)とは上陸許可を受け在留資格を有していたが定められた在留期限満了後も出国せずに在留していること(オーバーステイ・超過滞在)。不法入国は、上陸許可を受けず、したがって在留資格を取得せずに入国すること、または有効でない旅券を用いるなど不正な手段で入国することです。こうした不法滞在者は1993年の約30万人をピークに年々減少してはいますが、不法就労よりも効率的に金銭を得る手段として犯罪に手を染める者が多く来日外国人犯罪の温床となっています。不法滞在者が手を染める割合が多いのは、侵入窃盗・強盗、知能犯、凶悪犯などであり、また斡旋手数料などと称して莫大な借金を負わされて日本に入国し売春などで強制的に働かされている者も多いといいます。不法滞在それ自体が犯罪ですが、日本に小遣いで密航しスリや強盗を重ねて帰国しまた入国してくる輩もいるなど、不法滞在が深刻な社会問題となっているのは承知のとおりです。

このように、不法滞在者が絶えない背景には蛇頭や暴力団などの反社会的組織が、巧妙な技術で旅券や外国人登録証明書等を偽造したりして密航者を入国させ、違法な就労や重犯罪をさせている場合が多いとのこと。また、不法滞在の外国人が日本人を使って振り込め詐欺などをさせているというケースも聞きます。また、東京・鶯谷がメッカの韓国デリヘルや路上でのマッサージ客引き(中国人やフィリピン人が多い)の女性はほとんど不法滞在者だそうです。総数で減ってはいても悪質な犯罪を繰り返してることに変わりない不法滞在者。東京入国管理局では、不法滞在外国人の情報を公募しており、通報した外国人が強制退去処分となった暁には5万円以下の報奨金をもらえるそうです。中には「入管報奨金ハンター」なる人たちもいて、それと見受けられる怪しい外国人を通報するだけの簡単なお仕事なので、不法滞在者を見分ける嗅覚とコツを武器に稼いでるようです。単純に考えて、1人通報して強制退去になれば5万円ですから、10人単位の集団で潜伏しているアジトを通報するだけで100万円以上も夢ではない。荒稼ぎと揶揄する向きはあるでしょうが、警察に犯罪者を通報することと同じなので、まっとうな市民協力と言えるわけですから褒めて称えるべきなのでしょう。ともあれ、犯罪に手を染めるしかない不法滞在者もそうですが、彼らを入国させ使役する反社会的組織も無視できないわけで、不法滞在の根絶にはまだまだ遠いといえるかもしれません。

この映画は、まさにそうした不法滞在者とそれを幇助する立場の人間を描いたドラマ。犯罪(不法滞在)を幇助する側の少年イゴールが、不法滞在者のアシタに情が移って、それまでリミットとしてきた幇助行為の一線を越えた行動に出てしまうなど、単純にドラマとしてみると理解できる気がしますが、フラットな視点で見るとそら恐ろしいものを感じてしまいます。というのも、こうしたケースというのは実際によくニュースで見聞きする出来事だからです。詳細は忘れましたが、日本人の男性に会うために、十数年にわたって不法滞在を繰り返して逮捕された韓国人女のニュースがありました。これは韓国人女だけに非があるわけではなく、彼女を匿い続けてきた日本人男性にも当然のこととして非難の矛先が向けられました。彼は自分がしていることは犯罪であることはわかっていたはず(おそらく韓国人女も)。「愛は国境を超える」という言葉自体は美しいですが、それをどんな行為にまで敷衍することはあってならないこと。この映画の主題が、父による束縛からの解放だとか自意識に目覚めた少年の決断にあるとしても、その反動が犯罪行為なのだとしたら元も子もない気がするのですが。映画に何を求めるかが評価のひとつの観点となりますが、やはりストイックなほど現実的でなく、もっとそれこそ映画的な希望の持てる終わり方を期待していた僕には肌が合わなかったと言うしかありません。校舎のガラスを金属バットで打ち割っていった青春時代がない僕にとっては、まったくもって消化不良の作品でした。


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