バトルシップ

(2012年 / アメリカ)

エイリアンの母船と各国連合艦隊の激しい戦いを描いた海上スペクタクルアクション。ハワイ沖で各国の軍艦が合同軍事演習を行っていた最中、突然エイリアンの母船が出現し…。

連合艦隊の戦歴は日本人の記憶

太平洋戦争開戦時、世界三大海軍国の一翼を担っていた日本は、保有トン数と隻数ではアメリカ、イギリスに劣っていましたが、兵員の士気・練度はその両国を凌駕しており、事実上の世界最強海軍国家だったと言われています。日清、日露と立て続けに大国の海軍を打ち破ってきた連合艦隊は、長門、陸奥、大和の超弩級戦艦、旧式ながら高速戦艦として恐れられた金剛型といった超攻撃型の艦隊を揃える一方、零戦に代表される戦闘機、雷撃機、急降下爆撃機などを艦載機として配備。零戦が開戦劈頭で大活躍したことは有名ですし、急降下爆撃機も命中度80%を誇っていたといいますから、規模は劣るといえども日本海軍は向かうところ敵なしと言っても過言ではないはずでした。

真珠湾攻撃、マレー沖海戦を経て意気揚々としていた連合艦隊が、冷水をぶっかけられたのがミッドウェー海戦です。当初日本はアメリカを上回る隻数の艦隊を集結させつつありましたが、連勝による慢心、そして情報管理の不徹底により空母4隻を失うという大敗北を喫してしまいます。そこからの連合艦隊は、戦略・戦術の革新を怠らなかったアメリカに太刀打ちできなくなり、レイテ沖海戦で決定的な打撃を受けるや事実上消滅することになります。

敗因はいろいろと研究されていますが、日本海軍の基本思想は「日本近海での迎撃・決戦」だったので、遠隔地へ遠征する際の「補給」という概念が欠けていたということがよく言われています(陸軍も兵站を疎かにした)。大艦巨砲主義という言葉に如実に表れていると思うのですが、日本海軍の伝統は短期決戦だったので火力を重視した運用が尊ばれたため、輸送船護衛という発想に乏しく、そこをアメリカに突かれて補給物資がどんどん海の底へ沈んでいってしまいました。この結果、補給を受けられずバンザイ突撃をして散華したり、ガダルカナル戦のように大勢の兵士が銃火を交えることなく餓死してしまうことになったのです。

いくら高性能の艦船、練度の高い兵士を揃えたところで、勝利に向けた的確な戦略が固まっていないことには意味が無い。山本五十六連合艦隊司令長官は、早期に日本優勢の状態を作り出し有利な条件で停戦交渉をしたかったとのことですが、その割には真珠湾の太平洋艦隊を全滅させずに引き上げているし、ミッドウェーではアメリカ艦隊を覆滅させる具体的な戦術を持ち得なかった。大本営の決定には逆らえないという事情があったにせよ、それからの連合艦隊はほとんどアメリカにいいようにされてしまうわけですから、まったく考えなしで戦いを始めてしまったのと同じことです。戦地で散った日本兵、海の藻屑と消えた艦船の無念を推して知るべきでしょう。

さて、この映画はそうした日本海軍(現在は海上自衛隊)が、かつての敵国アメリカと手を組んで宇宙から飛来したエイリアンを撃退するという話です。物語の舞台は奇しくも、日米開戦の地となったハワイ沖。各国の海軍との合同軍事演習リムパック開催中に、突然エイリアンの船が宇宙から飛来して世界は大パニック。演習中の艦船が迎撃するも圧倒的な装備を誇るエイリアン船に一蹴され、ほぼ全滅させられてしまいます。そんな中、一隻だけ残ったアメリカの駆逐艦に乗り込んだホッパーとナガタは、互いに知恵を絞りながらエイリアン撃退に向け力を合わせます。

この映画の監督ピーター・バーグは、太平洋戦争時の日本に理解のある人のようで、また劇中でも日本海軍をリスペクトするようなシーンが見受けられました。彼はアメリカ人なので日本が戦争に敗けたことに対して特に感慨は持っていないはずですし、アメリカが日本を打ち負かすために用いた戦略や戦術を誇りに思っているとしてもまったくおかしくありません。それでも、彼が日本、それも戦争中の日本人に対してシンパシーを抱くようになったのは、おそらく他のアメリカ人と同様、日本人の精神性だと思います。

その精神性とは、現代の日本人が忘れ去ってしまったものですが、「国のために命を捨てる」ことです。それも、日本人にとっての「国」とは国に残した家族と言うより、日本という国そのものである「天皇陛下」のことでした。だから、逃ることも降伏することもなく「天皇陛下万歳!」と叫んで銃剣突撃してくる。このアングロサクソン系人種が持ち得ない精神性はアメリカ人にとって相当の脅威だったようで、ノーローゼにかかってしまう兵士が続出したそうです。こうした、悪く言えば猪突猛進的な行動原理が連合艦隊、いや日本の戦略の誤りにつながったと考えられなくもないのですが、そういった精神性がこの映画を全体的に彩っていたように思えました。だから、もしナガタが最初のエイリアンの攻撃で命を落としていたら、ホッパーが撃退に成功することはできなかった。そう思ってしまうのは僕が日本人だからでしょう。


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