グランド・イリュージョン

(2013年 / アメリカ)

4人のスーパーイリュージョニストチーム“フォーホースメン”。彼らはラスベガスでショーをしながら遠く離れたパリの銀行から金を奪い、観客を驚かせた。FBIとインターポールから追われることになったホースメン。彼らはどうやって金を盗んだのか? 彼らの目的はいったい何なのか?!

一本取られたで笑える心の余裕

僕はテレビでしかイリュージョンを見たことないため、リアルに目の前で展開されて得られる感動というものはついぞ味わったことはありません。テレビで見ても面白いと言えば面白いのですが、どうしても編集されているという読みが働いていしまって感興は巻き起こらず、なんとなく「ふーん」と鼻を鳴らしながら見終えるというのがいつものパターンです。見せ場のシーンでは思わず唸ることもありますが、どうせ「なーんだ」と笑ってしまうようなタネがあるんだろと。観客の女性を寝かせて手のひらの上で浮かせてみたり、頑丈な鎖で固定された箱の中から危機一髪で脱出してみせたり、人間の体を大きなナタでまっぷたつぶつ切りして元に戻したりといったところが有名な出し物ですかね。僕の世代で名を馳せたイリュージョニストと言えば、世界的にはデビッド・カッパーフィールド、日本だったら引田天功かな。彼らは決して呪術師や魔法使いではなく、僕らと同じ普通の人間なのですが、イリュージョニストたる高い資質を持っているからこそ評価されるのであり、世界中の人たちを魅了しているのです。そこ資質こそが、「観客をいかに心地よく騙せるか」です。

そもそも「イリュージョン」の一義的な意味は、幻影、幻想、錯覚。つまり、彼らイリュージョニスト自身はもちろん、観客でさえも目の前で繰り広げられている不思議な出来事はまやかしであるとわかっているのです。でも、そのまやかしを仕掛ける彼らは軽妙な口ぶりで出し物を披露していきながら、観客の関心を一気に引きつけようしていく。観客もその手には乗るまいとじっとヘマや不自然さを見張っているのですが、いつの間にか彼らの手玉にされてしまい、気づいたら無邪気な気持ちになって大喝采を送っている。これができれば、いやこれができなければ本物のイリュージョニストにはなれないでしょう。というのも、空中浮遊や人体切断、脱出などの大掛かりな出し物はほとんどと言っていいほどタネ明かしがされています。だいたい鏡のトリックや二重底になっていたとか、観客もグルだったというのが相場。ネットで検索すればタネはいくらでも出てきます。それでも観客が出し抜けられてしまうのは、騙されているのにエンターテイメントの歓びに浸されるからです。「一本取られた」ってやつですか。騙されることに対してお金を払いたくなるんですから相当なものです。

そこが詐欺との大きな違いなのですが、詐欺もイリュージョンも人の目を欺いて真実から目を背けさせるという点では同じ。そこに悪意があるのか、エンターテイメントに徹するのかの差ではあるのですが、小さなカバンから風船をいっぱい出して子供を笑わせてる隙に親から財布をくすねたり、暗示をかけてATMで大金を振り込ませたりすることだってできてしまいます。腹を抱えて笑ったあと「トリックがあるんじゃん」で済めばいいですが、真の詐欺師はそれを狙っているわけです。騙されたことに気づかせない、騙されているかもと疑心を起こさせないのが彼ら流のプロフェッショナルです。そう考えてみると、イリュージョンだけでなく、手品やマジックといった類さえも警戒してしまいそうになりますが、エンターテイメントを楽しめる心の余裕があれば引っかかることはまずないでしょう。大切なのは、イリュージョン一つひとつの出し物に対して「騙されている」と自身を客観的に見られること。一方的に熱を入れてしまったら、もう向こうの思う壺です。それは一般人である僕ら観客だけでなく、プロフェッショナルに対してもです。「一本取られた」で笑えればいいのですが。


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