英国王のスピーチ
(2012年 / イギリス)コリン・ファース主演の伝記ドラマ。子供の頃から吃音のために無口で内向的なジョージ6世が国王に即位。折しもヒトラーの率いるナチスドイツとの開戦を余儀なくされる中、王は国民の心をひとつにすべく渾身のスピーチに挑む。
伝える相手の存在こそ大事
僕ひとりだけの部署で僕ひとりだけで作業しているため、自然と1日にほとんど喋らないことが多くなり、気づいたらひと言も発しないまま1日が終わっていたということがしばしばです。今日なんか喋ったっけって思い返していて、ようやく思い出したらそれは独り言だったり。職場の環境もそうですが仕事内容的に職人的な領域なので仕方ないとは思うのですが、こんな生活人間らしくないなと、ふと悲しくなったりします。
こんな感じで毎日を過ごしているわけで、職場では大して支障はないのでありますが、それでも困ったことが起こります。それは、喋らないから(喋る機会がないから)口の周りの筋肉が硬直してしまうのかなまってしまうのか、発声がままならなくなることがよくあります。急に話しかけられたとき「あ、うぅ、あぁ……」とあごが外れたようになってしまったり、久しぶりに友人と長時間話した翌日には声帯を痛めて声が一切出なくなってしまったり。
スーパーのレジで「袋いりますか?」とかコンビニで「お弁当温めますか?」は生返事で済むけど、上司への説明とか必要なときに声が出なくなるのではないかと気に病むことが最近多くなってしまいました。声の調子はタイミングもあるので、それほど心配することではないとは自分に言い聞かせてますが、それでも少しでも発声しておこうと独り言が余計多くなったことは否めません。
でも、この映画の主人公ジョージ6世はもっと深刻でした。吃音で、しかも国王という公の立場にいる。僕のは日常的に喋っていれば簡単に克服できることですが、彼の場合はそうはいかない。戦争の前に国民に話しかけないといけない。だが、吃音を矯正する医師は国王に対する敬意など毛頭なく、彼は反発。そんな中でも、次第に2人の間に友情が芽生えていき、ジョージ6世は国民の前で堂々たるスピーチを成功させる。
映画を観て感動する要素って、脚本の良し悪しもそうだけど、やはり登場人物に感情移入できるかどうかにかかっていると思います。観客に感情移入させる要素は、言うまでもなく俳優の演技力。この点、日本の俳優・女優は欧米人にはかないませんね。だって、彼らはボディランゲージを用いて会話するので、抑揚なしの言葉だけで意思疎通する日本人などそもそも相手にならない。たぶん、一般の欧米人になにか演じてってお願いしても迫真の演技を見せてくれるのではないでしょうか。その反面、日本人は僕が喋るときのように「あ、うぅ、あぁ……」ってなっちゃうんじゃないでしょうか。
ダンスやミュージカルとは違う、自然で迫真の演技。まるで、思うように声を出せないときの僕自身を目の前に見ているような演技力。こんな感じで体全体でどっぷりと映画に浸っているときって、ちょっとつつかれただけで簡単に号泣してしまうものなんですね。