ウォーム・ボディーズ

(2013年 / アメリカ)

ある日、襲撃するはずの人間の女の子・ジュリーにひと目惚れしてしまったゾンビ男子・R。次第にジュリーも心を開き始めるが…。

人間がゾンビにならない方法

本来は人間らしい感情など持ち得ないゾンビが、ある日食糧とするために襲撃した人間の女の子に恋をして、感情的な温かさを取り戻していくというストーリー。そもそもゾンビとは、死体が蘇り死体のまま行動する化け物のことであり、生きる人間の対照としてホラー映画では定番のキャラクターとなっています。そんな温かさの欠片も感じさせないゾンビが、ある女の子と出会って人心地ついて、気づかぬうちに体温(ゾンビの体温は気温と同じという説あり)を上昇させていくというのは、逆説的でありファンタジックなのでありますが、そのあり得なさを恋の可能性と引っ掛けたのでしょうね。よくあるじゃないですか。恋をしたら、世界の頂点にでもたったかのように有頂天になり、なんでもできそうな根拠不明の自信が湧いてくるって話。いや、僕は嫌いじゃないですよ。むしろ映画はこんな感じで、生きとし生けるものはすべて(ゾンビも含めて)可能性を持っていることを観る人に訴えかける使命があるとあると、僕は思っているわけですから。

人を好きになったら、つまり恋をしたら体温が上がるというのは、何も可能性云々の話ではなく、生理的に解明されたメカニズムです。恋をすると感情の変化に関係する中枢神経系の活動レベルが上昇し、精神が高揚します。また、自律神経も交感神経が非常に優位の状態になり、運動したときのように胸がドキドキします。その結果、血流が良くなって自然と体温が上がるのです。さらに、恋をしているときは、ストレスホルモンが分泌されないのでストレスを感じることがなく、エストロゲン(女性ホルモンの一種)が多く分泌され脂質代謝が良くなるほか肌にツヤとハリもアップするのだそうです。体温の上がりすぎは問題ですが、恋のトキメキがもたらす体温上昇はこんなにも良い効用をもたらします。だから、ゾンビだって恋をすれば体温が上がることも不可能ではないのです(この映画の筋になぞらえれば)。

しかし、ここまで引っ張っておいてなんですが、恋をすれば必ず気分の高揚、つまり体温は上昇するのでしょうか。何を言いたいのかというと、どんな恋でも必ず体にプラスの効果を生じさせることができるのでしょうか。成就する見込みのない恋、両親に大反対されている恋、勝ち目のない三角関係の恋、敵対関係同士の恋、二次元キャラへの恋……。まだ進展するチャンスが残っているのならいいのですが、その見通しすらも寸断されてしまったらとしたら、かなわぬ恋として諦めるほかなくなってしまったとしたら。僕によくあるパターンですが、交際してある期間を過ぎてしまうと途端に相手に関心が持てなくなる。はじめから本気でなかった事情はあるにせよ、こういう時期は本当に辛いです。別れようと告げるには相手がまだ本気すぎる、継続するにしても取り繕おうとすると相手に悟られる。体が温かくなるはずありません。むしろ、ひとりでいる時より心に冷たいものを感じます。たぶん、こういうとき、僕はゾンビなんだと思います。すると、僕が再び体温を取り戻すには、人間に戻るにはどうしたらいいか。ゾンビが人間に恋するという話は決して荒唐無稽ではないってことですね。


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