アドレナリン
(2006年 / アメリカ)シェブ・チェリオスは、ロサンゼルス最大のマフィアに雇われているフリーのスナイパー。ある朝目覚めると、宿敵リッキー・ヴェローナから信じられないメッセージが残されていた。「眠っている間にある毒を盛ったぜ! お前はあと1時間しか生きられない!!」。 知り合いの医者に相談すると、「体内にアドレナリンを出し続ければ、毒の作用を止められる!」と告げられる。
超人になるか狂人になるかの境目
副腎髄質より分泌されるホルモンであり、神経節や脳神経系における神経伝達物質。つまり、人体に危険を察知した際に全身に緊急指令を回し戦闘モードにする伝達物質のことですが、これをアドレナリンと言います。本来であれば医学や化学を志していないとお目にかかれない言葉だとは思いますが、何がきっかけだったかは知りませんが、いまは「ヤバいと思った時や危ないと感じた時に分泌され心身を高揚させる」物質としてよく知られています。アドレナリンは、基本的に「外敵や外部のプレッシャーから身を守る」ための物質であることから、一種の防衛本能が物質化したものであると言ってもいいわけだし、うまいことリミットが近づいているという状況を作り出して(自ら思い込ませて)、意図的にアドレナリンが分泌される環境に身を置けば、かつてない集中力で作業をはかどらせたり別の視点からのアイデアが生まれてくるのです。
それじゃ、四六時中アドレナリンを分泌しまくってればいいじゃないかという話になるのですが、そんなうまい話があるわけありません。アドレナリンには持続性がないのです。しかも、アドレナリンが分泌されている状態とは怒っているのと同じことであり、血圧が上がり心拍数も増えている状態でもあるので、体の負担が増え突然倒れたり高血圧になったりします。イメージとしては、と言うかまんまだ思うのですが、ドラゴンボールの超サイヤ人みたいなもので、変身していられるのほんの一瞬で、通常時に戻った時は相当の体力が奪われていて敏捷に動くことができない。だから、一流のスポーツ選手は、試合前の精神統一して、ここぞという時にアドレナリンを分泌させて守る時は抑えて攻める時は最大の力を発揮するようコントロールするのです。
この映画の主人公シェブは、わけのわからない中国製の毒を注射され、「あと1時間しか生きられない」と宣告されます。で、知り合いの医者から「アドレナリンを分泌し続ければ毒を抑えられる」とアドバイスを受け、とにかく下手人を見つけるまで大量のエピネフリンを打ったり怪しげな強壮剤を飲んだりしながらロサンゼルスの街を走りまくります。アドレナリンというからには、自己防衛本能を強化して超人的な大立ち回りを演じるかと思いきや、麻薬や飲酒によるハイの状態といったほうがしっくりくるほど、彼の言動は常軌を逸していて無鉄砲。周りのものを平気で壊し、店からは商品を堂々と万引きし、暴走した車で交通をメチャメチャにし、人前で破廉恥な行為に及ぶ。ま、映画だから面白く観られますが、現実にはあり得ない、いやあってはいけないことです。アドレナリンはほんの一瞬しか作用しないからこそ重宝されるわけで、いつまでも続くようだったらもうすでに人類は滅亡していたことでしょう。