ムード・インディゴ~うたかたの日々~

(2013年 / フランス)

金に不自由せず生きていたコランは、無垢な魂を持つクロエと恋に落ち結婚し、愛と刺激に満ちた幸せな日々を送っていたが…。

色彩表現が際立つ作品で注目すべき点

恋に色を付けるとしたら何色でしょうか。よく順風満帆の恋には「バラ色の恋」、逆に片思いの辛い恋には「ネズミ色の恋」とか、その恋のシチュエーションによっていかようにも変容するものなので、つねに一定した色が付けられるわけではありません。でも、心躍るような恋には美しい花や絶景の形容が付き、どん底まで落ち込むような恋は雨雲や灰の色にたとえられることは、万国共通だと思います。一時の燃え上がりが落ち着いた状態、また終焉のにおい漂う停滞期については、特に色で表現されるケースを見聞きしたことはありませんが、パステル調やライト系の淡い色こそ当てられはすれど、ビビッドな色調は絶対にあり得ないでしょう。好きな色によって恋愛観がわかったり、そういった占いもあるので、恋をしている人が自分の恋はどんな色をしているのか、思い浮かべてみるだけで、その恋の状態や行方などが知らぬうちに暗示されるものなのだと思います。

実際に、心理学では色がさまざまなメッセージを持っていると分析されています。で、本稿のテーマである「恋愛」に効く色ですが、やはりピンクやマゼンタ、ライラックといった、赤系、紫系が強いようです。桜のような薄いピンクやベビーピンクは純粋な愛を表し可憐さやしとやかさ、レッドは情熱やストレートな愛情、マゼンタは大人の女性らしさと秘めた情熱、ライラックはしっとりした落ち着きと色気をそれぞれアピール。なので、いわゆる「バラ色の恋」の色とは、以上挙げた色のどれでも当てはまると思います。逆に、恋愛力がダウンする色が、黒、グレー、ロイヤルブルー。男性的なイメージが強く「隙がない」というメッセージを与えることもあり、恋愛など見向きもしない意味合いが込められていることから、そもそも上げ調子の恋愛に結びつけることなど不可能というわけです。

さて、映画やドラマでは登場人物の心理を役者の演技のほか、音楽や撮影方法(レンズフィルター)、ロケーションなどで表現できますが、小説など映像表現がない媒体ではどうすればいいのでしょう。まさか「良夫はマゼンタ色の恋を謳歌していた」なんてあからさまな表現が用いられるはずがありません。同人誌などの素人ならまだしも、プロの小説家は巧みな描写で登場人物の心理を炙り出し、それを読者の心にダイレクトに伝えます。そういう小説こそ「文学」と呼ばれるべきであり、また後々まで読み継がれていく古典となるべきなのです。この映画は、全編にわたって艶やかな色、単調な色、暗い色が、主人公の心理と連動する形で色付けられています。それはいい。でも僕が映画そっちのけで気になったのが原作のほうです。もともと色彩表現ができる映画という媒体にわざわざ色付けをせざるを得ないほど、原作の色彩表現、つまり主人公の心理描写が巧みだったのか。いつになるかはわからないけど、原作を手に取ってみたいと思わせる作品でした。


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