ニコラス・ケイジのウェザーマン
(2005年 / アメリカ)シカゴのお天気キャスター、デイヴ・スプリッツは1日2時間勤務で24万ドルを稼ぎ出す男。さらに彼には全国ネットの仕事への誘いも。だがそんな誰もが憧れるようなビジネスの成功も、私生活での失敗を前に輝きを失っている。
俳優ニコラス・ケイジの魅力とは
大作と呼ばれるハリウッド映画出演作を数多く持ち、日本でも人気が高いニコラス・ケイジ。彼が出演する映画は、必ず話題作として取り上げられ、その少なからずがヒットするわけですが、僕はどうしても彼のファンになれません。もちろん、僕は彼と直接会ったこともないし、遠くから彼の素顔を拝んだことすらありません。彼のファンの大部分がそうでしょうが、僕と彼との関係は映画の出演者とその視聴者であるに過ぎず、彼については映画の役柄でしか知り得ません。なので、彼を評価する基準は「映画スクリーンの中のニコラス・ケイジ」となりますが、それなりに彼の出演作を見ていく中で、「やはり今回も好きになれなかった」というのが毎度の結論。生理的に受け付けないとか顔を見るだけで虫酸が走る、という程ではないのですが、なぜか彼を見ると、期待感が一気に萎えてしまいます。何と言いますか、彼が主役というだけで、大どんでん返しを含めた映画のあらすじが読めてしまうし、たいていその直観は間違っていないからです。
ジャック・ニコルソンやアンソニー・ホプキンスなど、「顔でネタバレ」と言われる映画俳優がいます。顔の表情や立居振舞もそうですが、それまでの印象深い代表作が色濃く影響することで、猟奇的だったり奇想天外な展開を連想してしまうからでしょう。実際、僕も「シャイニング」や「羊たちの沈黙」のせいで、彼らが出演している映画はやはりそういう目で見てしまいます。いくらほのぼのとした役柄であっても、最終的に豹変するんだろうと。でも、たとえそうであっても、僕は彼らのことは好きです。どんなにイメージが強くても、存在感があって重厚な演技ができる俳優というのは、映画を観ていてその役柄に容易に感情移入できますから(だからこそ「顔でネタバレ」などと言われるようになるのかもしれません)。豹変してやっぱりそうかとなっても、何も起きず平穏に終劇したとしても満足できるのです。さて、ニコラス・ケイジはどうでしょう。これは完全に個人的な印象になってしまうのではありますが、僕が思うに、ニコラス・ケイジは別の意味で「顔でネタバレ」です。
その心は、まさにこの映画の内容が指し示しています。自然現象である天気の変化をずばり言い当てられる人がいるはずがないのと同じく、自分自身の人生を見通せる人などいるはずがない。天気予報士も当然のことながら人間なので、完璧に各地の天気から気温、風の強さ、雲が覆ってくるタイミングなどを予測することなど不可能です。それをニコラス・ケイジが演じています。未来を予知する能力や、思い通りの人生に転換させる能力を持たない、ごく普通の中年男性。これがニコラス・ケイジであり、彼が演じるどの映画の役柄にも通底しているものです(あくまでも僕の私感)。一般的に、どこにでもいそうな人を演じることはむしろ難しいと聞きますが、ニコラス・ケイジの場合、あまりに自然すぎて感情移入する余地を見いだせません。どことなく自信のなさそうな顔つき、肉弾戦で活躍しなさそうなひょろ長い体格、先頭を切っても誰もついてこなさそうな人望の弱さ。アクションものでは弱そうなキャラが最終的に活躍したり、ドラマでは薄幸な家族関係、恋人関係の中で最後の最後で幸せをつかむ。どんな映画でもよくあるパターンですが、ニコラス・ケイジの場合、それが際立ち過ぎている。だから、僕は彼を映画で観る価値を見いだせないのです。
でも、見方によっては、人間でありながら人間を違和感なく演じられる。話の展開が面白い、面白くないに関わらず、リアルで等身大の人間を、実直に演じられる。ニコラス・ケイジとは、実は稀有な俳優なのかもしれません。