アポロ13

(1995年 / アメリカ)

月へ打ち上げられたアポロ13号に爆発事故が発生。絶望的な状況の中、乗組員の救出作戦が決行される。

人間が宇宙を征服できても忘れてはならないこと

アポロ13

宇宙開発事業関連の事故で、僕が知っている中でもっとも鮮明に覚えているのが、1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号の事故です。打ち上げから73秒後に空中分解し、7名の乗組員が死亡したという凄惨な事故だったわけですが、テレビのニュースで何度も伝えられたことから、当時小学生だった僕の脳裏にその映像はくっきりと焼き付けられました。低温によるOリングの弾性喪失や設計ミスで燃料が漏れたことが原因だったとのことですが、そうしたことより、学校の焼却炉にたなびく白煙などとは比べ物にならないくらいの爆煙の向こう側で、7人が死亡したという生々しい現実に僕は戦慄を覚えました。経済成長が続き世界じゅうの市場を席巻していた、無敵で平和な日本でぬくぬくと育った僕が、一歩外の世界の現実を知った瞬間だったのです(その前年に日航機墜落事故がありましたが、それでもチャレンジャー号の爆発の映像から受けたインパクトはあまりに強烈でした)。

その後、回収された乗組員の遺体を解剖したところ、死因は「海面に叩きつけられたことによる衝撃」で、爆発が起きた瞬間に絶命したわけではなかったとのことです。しかし、社会科の授業などで広島長崎に投下された原爆のキノコ雲を何度も見せられてきた僕には「爆煙イコール死」という等式が崩れることはありませんでした。ロボットアニメで宇宙に対する空想科学的なロマンを抱いてはいましたが、テレビに映しだされた映像は、紛れもなく死の現場。僕は、朧気ながらも宇宙に行ってみたいと感じたことをそら恐ろしく思ったものです。それから、2003年にはスペースシャトル・コロンビア号が大気圏再突入の際に空中分解を起こし、これまた7名が犠牲になったという事故がありました。外部燃料タンクの断熱材が脱落したことで、再突入した際、衝突による損傷部から超高温の空気が流入したために機体が空中分解したことが原因とされています。不謹慎ではありますが、その頃社会人になっていた僕は、宇宙旅行なんて脳天気な道楽者が思い描く憧れにすぎないと冷ややかな見方をしたものです。

この映画は、そんな夢追い人というより「命知らず」と言うべき(僕の視点で)3名の宇宙飛行士が、月面着陸を目的としたアポロ計画の過程で機体の酸素タンクが爆発し、月への航行を中止し地球帰還を余儀なくされます。その間、電力と酸素の不足により、乗組員たちは深い絶望に陥れられます。それでも、彼らはヒューストンとの交信を続け、地球への帰還に成功。スタッフやアメリカ国民のみならず、世界中が大歓呼で迎えたのでした。

という話ですが、やや冷ややかな目線で全容を追っていくと、彼ら3人は莫大な予算をかけた宇宙船に乗り、全国民の期待を背に月でのミッションを遂行するはずだったのでした。でも、途中でそれが果たせなくなり苦難を乗り越えてきたとはいえ手ぶらで地球へ戻ってきて大喝采を受ける。いったい何のために宇宙に行ったんだという話です。これではまるで、井戸に落ちた子を救おうとして自らがハマり込んでしまい、他の人に救出してもらって、子どもそっちのけで大歓声を浴びるみたいなものじゃないですか。かなり穿った言い方をすると、では完璧に宇宙でのミッションを遂行して地球に帰還したら誰も見向きもしないのかと。そんなことはあり得ませんが、やはり人はまだ宇宙を怖れているのでしょう。いくら航空技術が発達して、地球の裏側まで1日あれば行けてしまうとしても、宇宙は神の領域といったイメージで、侵してはいけないと考えている人がほとんどなのではないか。だから、宇宙空間でトラブルが起きると真っ先に「死」を連想し、帰還は不可能だと思いこむ。それでも帰還してこれたら、たとえ結果を残せなかったとしても、神と同等程度に英雄視して、自らのことのように歓喜する。

ただ、気づかなければならないのは、大病からのカムバックがいい例で、ある程度の実績・社会的認知度がないことには人の心を動かせない。鳴かず飛ばずで解雇寸前の2軍選手が骨折で1年を棒に振ってから復帰しても、感動は起きないのと同じことです。宇宙飛行士という、無限の恐怖が渦巻く宇宙に挑戦するファイターであるからこそ、人は彼らに憧れ感情移入することで彼らの動向を我が事のように思うのでしょう。僕はアポロ13の帰還をリアルタイムで見てはいませんが、もしその生中継を見ていたとしたら、きっと周りの知らない人たちと抱き合って喜びをわかち合っていたのではないかと思います。映画では脚色されている部分が多いから映画なりの感動は覚えましたが、やはり人間のナマのドラマには誰もが心震えてしまうもの。だからといって、当時の事故をまたやってくれとは口が裂けても言いませんが、この映画を観て、宇宙に限らずスポーツや芸術などの分野でリアルでナマの感動を得ることは、人間としてすごく重要なことなんだなとの思いを新たにしました。


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