ナチョ・リブレ 覆面の神様

(2006年 / アメリカ)

修道院で食事係を務めるドジな男ナチョは、孤児たちに美味しい食事をさせたい一心で、幼いころから憧れていたルチャ・リブレの覆面レスラーになる。

ジュニアヘビー級の魅力とは

僕は学生時代、大のプロレスファンで、テレビ中継をかかさず観たり実際に観戦に足を運ぶことがよくありました。当時のメジャー団体は全日本プロレスと新日本プロレスのふたつで、それぞれファイティングスタイルに違いが異なり、前者が守勢的で玄人向け、後者が攻撃的でエンターテイメント性という色分けがはっきりとなされていました。当然、プロレスファンの間でも全日派、新日派で分かれていたのですが、僕は初め全日だけで新日は敬遠していたのものの、次第に新日の面白さと全日のマンネリに気づきだすと、新日のほうに傾倒していくようになりました。全日が分裂しプロレスリング・ノアが誕生すると、ノアもエンターテイメント性を重視するようになったので、新日をメインにしつつノアも動向を追うという見方に変わっていきました。

新日の何が僕、いや大勢の新日ファンを引きつけたかというと、個性豊かなレスラーがリング上でド派手な技を繰り広げるなり、場内のファンが一緒になって地鳴りのような雄叫びを上げる一体感にあったかと思います(全日は技を出しても拍手がパラパラ起きる程度)。で、何がそうしたそうした一体感を生んでいったかというと、レスラー同士の因縁、軍団同士の対立関係などがリング上で実に巧妙に描かれていたため、ファンは贔屓のレスラーに限りなく感情移入できてしまう。たとえ、スタジアムにいなくても、テレビ中継やスポーツ新聞などで結果を知った途端、次の試合ではいったいどんな展開になるのか。あのレスラーとこのレスラーは和解するのだろうか、この団体は消滅してしまうのだろうかなど、想像しただけでワクワクしてくるのです。それにしても、レスラーが独自で動いているはずはなく、作為的なにおいは感じるのですが、下手なドラマより面白い。それが新日本プロレスでした(僕が知っているかつての)。

こうした劇場的な展開がリングで繰り広げれらたのは、主にヘビー級同士の試合でした。闘魂三銃士、佐々木健介、小島聡、中西学、天山広吉、長州力、藤波辰爾、スコット・ノートンらの主力選手が入り乱れて軍団抗争をしている中、ジュニアヘビー級は比較的純粋な試合をしていたという記憶があります。ライガー&サムライ、大谷&金本といったタッグ上での区別はありましたが、ヘビー級ほど溝の深い抗争ではなかったと思います。ただ、もしヘビー級のような抗争があったとしても、ジュニアヘビー級には彼らなりの色があり、そちらのほうが目を引きました。それはなんといっても、リングの内外かかわらず跳ね回るアクロバティックな飛び技。ヘビー級もトペ・スイシーダやトップロープからのジャンピングボディプレスなどはやるのですが、両足を相手の首に固定して回転し相手を丸め込むフランケンシュタイナー(ウラカンラナ?)、トップロープから宙返りして相手に体を浴びせかけるムーンサルトプレス、場外の相手にトップロープから前方宙返りしながら体を当てるトペ・コンヒーロなど。獣神サンダーライガーが得意としている技が多いのですが、新崎人生の拝み渡りなどレスラー個人で編み出した独創性あふれる技も観られるからたまりません。

こうしたジュニアヘビー級の飛び技の多くは、メキシコのルチャリブレ(スペイン語でプロレスのこと)発祥のものが多いとのこと。技だけでなく、ルチャリブレでは覆面レスラーが多く、ライガーやザ・グレート・サスケらにその影響を見ることができます(マスクマンは人前では決してマスクを脱がないとのこと)。日本の若手レスラーがメキシコ遠征するのもこのためでしょう。みちのくプロレスはこのルチャリブレ路線が特に濃かったですね。新日との軍団抗争で、新日に及ばなかったものの、アクロバティックな技の切れ味では新日以上だったという印象があります(関係ないけど、愚乱・浪花というレスラーがお気に入りでした)。

さて、プロレスの醍醐味とはいったいなんでしょうか。鍛えぬかれた強靭な肉体を武器に相手が倒れるまでぶつかり合うパワースタイルか、はたまた、リング上の空中をも戦場に加えアクロバティックかつトリッキーな技で相手を翻弄していく三次元スタイルか。それは人それぞれでしょうが、観ていてワクワクするスポーツ、それがプロレスであってほしいと思っています(だから僕はシューティング系格闘技が好きになれません)。それにしても、ジュニアヘビー級レスラーがトップロープから飛翔する際、カメラのフラッシュがあちこちで焚かれる様は実に美しいです。こういう相手を攻撃するのとはまた別の視点からの見栄えもまた、プロレスの醍醐味のひとつですね。


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