オーシャンズ11

(2001年 / アメリカ)

4年の刑期を終え、仮釈放されたカリスマ窃盗犯ダニー・オーシャンは、すでに次なる標的を決めていた。それは、ホテル王ベネディクトが経営するラスベガスの3大カジノ「ベラージオ」「ミラージュ」「MGMグランド」の巨大地下金庫に眠る総額1億5000万ドル。

大泥棒が英雄になれる条件

オーシャンズ11

泥棒とか盗賊というのは常識的に考えれば憎むべき反社会的な存在でありますが、テレビドラマやアニメでは「弱い者の味方」として描かれることがよくあります。彼らがやっていることは「人の物を盗む」ことに違いないのですが、それが結果的には弱い立場の人たちを救うことになるから主役になり得るというわけです。不当にぶん取られた資産を取り戻してくれたり、過度に税を取り立てる為政者から金品を盗んで民衆に還元したり、こういった行為が悪に鉄槌を下したと捉えられ喝采を得るといった感じです。盗まれる側が徹底した悪であればあるほど、盗むという行為が犯罪であるという見方が薄れ、手段としては正当ではないが虐げられている人を救っているのであれば悪事は悪事でも「必要悪」だという観念が生まれてくるからでしょう。だから、盗まれる側が徹底した悪者でなかったとすると、この考え方は成り立ちません。世間の同情を引く泥棒行為が正義の味方になり得るのかどうかは別として、血も涙もない悪漢の鼻を明かして、奪われた資産を元の持ち主に返すストーリーはドラマとして面白いです。何かが流行るのは世相を反映しているからと言われますが、義盗とか義賊と呼ばれた人たちがなぜ主役になれるのかは察して余りあるといったところでしょうか。

さて、日本でよく知られた大泥棒といったら、安土桃山時代の盗賊、石川五右衛門ですね。浄瑠璃や歌舞伎をはじめ、映画やテレビドラマ、そしてアニメ「ルパン三世」のキャラクターとしても描かれている五右衛門は、史料に乏しいため伝説や創作ばかりが先行していますが、京の三条河原で処刑されたことはたしかな模様。有名な釜茹でですね。で、徒党を組んで盗賊を働き諸国を放浪して荒らし回っていたが、相手は権力者のみだったため、豊臣政権が嫌われていたこともあり、庶民の英雄的存在になっていったというのが大筋。最後は、秀吉暗殺を試みるも捕らえられ処刑されました。どこまで本当か創作かはもうわかりませんが、盗賊のはずの五右衛門に庶民が喝采を送っていたということが重要。同じように、江戸時代後期に現れた鼠小僧も庶民から慕われたというストーリーを持っています。汚職大名や悪徳商家から盗んだ金銭を、金に困った貧しい者に分け与えたとされているのがそれ。ただ、盗んだ金のほとんどを博打と女と酒に浪費したという説が定着しているそうで、これまた創作が先走っているという印象ですが、それでもやはり絵になるのは庶民の味方としての盗賊であるし、僕もそういう存在を無意識のうちに英雄視している向きがあります。人情味あふれる勧善懲悪の要素を感じ取るからでしょう。

でも、五右衛門や鼠小僧は本当に民衆のためを思って盗みを働いていたのでしょうか。目には目を歯には歯をの精神で、悪政には反社会的行為で対抗するのは現代では通用しませんが、当時からすれば自然な流れだったのかもしれません。だから、赤穂浪士による吉良邸討ち入りが江戸の庶民から大喝采を浴びたわけだし、現代では同じような仇討はできないものの、ドラマで放送されるとたくさんの視聴者の共感を呼びます。赤穂浪士の件は忠君の一文字でしたが、盗賊にしてみれば民衆を味方につけておくことは仕事がしやすくなるメリットがあります。五右衛門らがそこまで計算して盗みを繰り返していたかわかりませんが、ドラマでは「盗む側」と「盗まれる側」との善悪がはっきりと区別されて描かれるので、泥棒行為が「盗む」ではなく「取り戻す」とインプットされてしまうのですね。

この視点で考えると、この映画はそうした側面の動機付けが曖昧だったと感じてしまいます。普通の大金持ちから金をせしめる、つまり悪意のない善意の人物から金を騙し取るという、一義的な意味での「盗む」行為に終始しているということ。たしかに、金を盗むまでのプロセスはエンターテイメントとして十分面白いです。でも、盗まれる側に、こちらが憤慨するようなエピソードが希薄だったため、観終わったあと「なんだ、泥棒の話だったんだ」という感想だけで終わってしまう。映画自体エンターテイメントなので、これはこれで完成していると言われればそれまでですが、僕なんかは盗みが成功したという単純なノリではなく、悪を出し抜いたという爽快感と弱い者を救ったという充足感を求めてしまうのです。これが日本人的な感覚なのか単に文化の違いなのか追究するつもりはありませんが、面白かった割にあまり心に残らない作品だったことは確かです。


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