フェア・ゲーム

(2010年 / アメリカ)

CIAエージェントのヴァレリーと夫のジョーは、ブッシュ政権のイラク大量破壊兵器に関する真実を告発したために、政府から自分たちの素性をリークされる。

インテリジェンスの使い途

「インテリジェンス」って聞くと、メガネかけて分厚い本抱えてる学者然とした、いわゆるインテリを連想してしまいますが、実際はずばり「情報」を意味します。しかし、ここでいう情報とは、テレビのニュースとかインターネットの検索で羅列されたもののことではなく、外交や軍事などで活用するために加工された情報となります。情報には3つの次元があり、加工されていない基礎となる数値や資料(データ)、データをある目的に沿って比較や趨勢把握できるように加工したもの(インフォメーション)、インフォメーションに基いて判断や方向付けがなされたもの(インテリジェンス)に分類できます。この中で、インテリジェンスが最終項目となっていることからも、それが非常に高度かつ国家間の機微に触れる用途向けのものであることがわかると思います。そのため、政治の世界ではもちろんのこと、ビジネスや人間関係、さらにはテロにさえ用いられることもあるでしょう。どのみち、インテリジェンスにアクセスできたり使いこなせたりするのは、極めて限られた人員、組織となります。

このように、インテリジェンスは主に国家機密に触れる緊張度の高いオペレーションなどに活用されるものと言えますが、僕ら一般人もそこまで高度に昇華しないまでも、データの見極めは無意識に行っているはずです。たとえば、インターネットにアクセスすると、とてつもなく膨大な情報と出合うこととなるわけですが、少しでもネットリテラシーがある人なら、調べたい情報に合わせた用語で検索をかけて絞り込みを図ります。それから、1番目にヒットしたものに飛びつくのではなく、ある程度の項目を目で追っていって、自分の求めている情報を探します。そして、何件かの記事を当たってみて必要か否かを選別していき、候補を2つか3つに狭めていきますよね。これが情報の加工と言えるかどうかは別として、少なくともテレビの天気予報を鵜呑みにするようなことはしていません。自ら情報を取捨選択しているのですから。いまは一般の人でも意識するにせよしないにせよ、データをインフォメーションに昇華させる、あるいは近づけさせることをする時代です。インテリジェンスは、一般人でもできるデータの加工をさらに研磨したものと言えます。

では、インテリジェンスは、近年アメリカのCIAやイギリスのMI6のような諜報機関でのみ発達した技術なのでしょうか。そんなことはありません。もう何百年も前から、戦国時代の領主や大航海時代の商船主、列強の君主・宰相などの間では、さかんに飛び交い、生き残りのために練りに練られてきたもの。飛び交う情報が多くなればなるほど、諜報活動の存在感が色を強めていき、スパイと呼ばれる人の技量が担う国家の存亡の度合いも増していきます。これはいまも昔も変わっていません。インテリジェンスに無頓着な国は例外なく消滅しています。ただひとつ、日本を除いてですが。

この映画の焦点となっているのは、アメリカがイラク戦争を始める根拠とした大量破壊兵器の有無。結果的にはないことが判明したのですが、実はアメリカは見切り発車で戦争を始めたのではなく、初めからないとわかっていた。この超A級のインテリジェンスをアメリカ政府にあげたのは、言うまでもなくCIA。エージェントがイラクに核開発計画はないことを突き止めたにもかかわらず、「ある」と伝えたのです。これによりアメリカはイラクに宣戦布告するのですが、その裏でもうひとつの戦争が始まりました。すなわち、イラクに大量破壊兵器はないことを突き止めたエージェントとCIAの戦争です。そのエージェントは、アメリカの正義を報じるマスコミ、それに酔う国民からのバッシングを受け、たちまち不利な状況に陥ります。

映画を通して、「インテリジェンス」とは実は物事の真贋を見極める技術なのではなく、国民の目をいかに政府の目的に向けさせるかにも利用し得る、危険な媚薬になり得るものなのだと感じました。ただ、映画を観て「感じた」ということよりもっと怖ろしいことが、現実として起こっていることに気づかねばなりません。どんなタイプの情報にも必ず特定のフィルターがかかっていて、それによって人は気が付かないうちに行動させられている。結局のところ、いくらインテリジェンスが最高度に洗練された情報だとしても、全世界を幸せにすることなんてできない。インテリジェンスは戦争を未然に防ぐことに利用されるべきなのですが、現代の戦争はかつての熱戦とは様相を異としているからして、特定層だけが利益を得るためのものにすぎないのではと思ってしまいました。


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