最強のふたり

僕は、生真面目で面白みのない人間と思われることが多いです。実際そうです。僕自身、それを自覚しています。飲み会でお酒を飲んで騒ぐのが大嫌いで、顔合わせ会であれ忘年会であれ二次会は理由をつけて参加しないし、昼休みに同僚と連れ立って一緒に食事に行くこともないし、仕事の合間に雑談をしてリラックスし合うことが気の利いたことだと思わない。だいいち、冗談を言うことが苦手、というより嫌いです。誰かから僕に面白いこ...[続きを読む]

カンフーハッスル

もうかなり前の話ですが、国際交流活動をしていたとき、香港人の友人から英語名をもらったことがあります。「リチャード」です。名前をつけてくれた彼はたしかウィルソンという英語名で、名付ける際には有名な俳優に似てるからとか特別な意味はなく(僕はリチャード・ギアには全然似てません)、ほぼ思いつきであだ名をつけるような感じなんだそうです。実際、香港では自分で名付けるケースがほとんどで、英語に限ることはなく別の...[続きを読む]

八日目の蝉

僕はマジョリティを避けるきらいがあります。マジョリティと言っても位置づけはさまざまですが、僕が言うマジョリティとは「圧倒的多数の支持」のこと。メディアなどで登場すれば大歓声、大歓喜を受けるような人にはそっぽを向きます。その人の人間性がどうというより、僕自身がそういう流行の波に乗せられてしまうのが嫌なのです。かつて若貴ブームの時、どちらかが土俵にあがってテレビの内外から大歓声を受けているとき、僕は必...[続きを読む]

トワイライト 初恋

僕は生まれてこのかた30年以上、一度も鼻血を出したことがありません。鼻血が出る原因として、血圧上昇、衝突などによる外傷、チョコレートの食べ過ぎ、エロイこと考えてたから、などいろいろ言われていますが、小学校、中学校時代でよく遭遇した鼻血の原因ナンバーワンは、ケンカでした。病気や感染症が原因で鼻からの出血が止まらないというケースは見なかったと思います。高校になってから以降、友人や同僚が鼻血を出している...[続きを読む]

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

僕が生まれた町は海沿いにあります。遠洋漁業用の大型漁船が拠点にする本格的な港町ではありませんでしたが、岸壁で釣りをする人や春先には潮干狩りに来る人たちで賑わいます。僕の家は山を切り開いた住宅地にあったため、海まで行くのに車で40分ほどかかりましたが、食卓には海藻や貝、親戚が釣ってきた魚などがよく並んだため、海はつねに身近に感じていました。その反面、地形的に海が都心へ出るための障壁となっていたため、...[続きを読む]

マイケル

アメリカだけに限りませんが、生まれた子に、宗教にゆかりのある名前をつけるケースが多くあります。たとえば、キリスト教徒だったらジョン、ピーター、ポール、マリア、キャサリン、モニカといった具合。あと、イスラム教徒とかヒンドゥー教徒にも同じ傾向があると思われます。いずれも信仰心の厚い、あるいは宗教が国柄を表している(こんなふうに表現してしまうのも日本人らしいのですが)国または地域だからこその風習だと思い...[続きを読む]

50回目のファースト・キス

僕は物忘れが激しいほうです。何かがひらめいたらその瞬間に忘れるというのはしょっちゅうで、これをやろうと決めてからちょっと集中を途切らせるともうその途端に忘れています。物忘れというより、記憶や考えが吹っ飛ぶというニュアンスが近いです。歯磨きとか着替えとか日常的なルーティーンなら体が覚えているから問題ないと言いたいところですが、それでもふとした瞬間に記憶が飛びます。特に、髪の毛を洗っているとき、あれシ...[続きを読む]

シルミド

敵(対立)の存在が明確であればあるほど、物語は面白くなります。僕が脚本の勉強をしていた時、ストーリーを構築する上でまず初めに習ったことが、主人公との対立構造をはっきりと描くことでした。対立を軸に据えることで、主人公の人生における葛藤を生じさせることになり、これにより彼に足枷が加えられたり逆境となって立ちはだかったりする。誰の人生でも選択肢を迫られる葛藤を経験しているので、対立構造が明確なほど主人公...[続きを読む]

オペラ座の怪人

小学校から高校までの間、文化祭と同時開催だったかどうだったか覚えていませんが、何かのタイミングで合唱コンクールが毎年ありました。たしか課題曲は設けられておらず、候補の曲の中からクラスで自由に一曲決めるやり方で、学年ごとに競うものでした。これが全国でも同じだったのかは知りませんが、僕は高校まで地元の公立に通っていたため、市内の学校はどこも合唱コンクールがあったと思います。ピアノも指揮もできない僕は当...[続きを読む]

ONCE ダブリンの街角で

学生時代、アコースティクギターに打ち込んでいました。特に何かをしたいわけでもなく、日がな一日、何かに取り憑かれでもしたかのように、二万円だか三万円だかで買った安物のギターをかき鳴らしていました。音楽の素養もなく、楽譜すらろくに読めない僕は、初心者向けの教則本と一日中にらめっこしながら、とにかく指を動かして体で覚えることが先決と、慣れないコードに四苦八苦しながら雑音をまき散らす毎日。当時住んでいたア...[続きを読む]